インフルエンザウイルスの構造と増殖そして変異について

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インフルエンザウイルスの構造と増殖

皆さんが一般的に呼ぶインフルエンザウイルスとはいくつかの種類に別れており構造も少し変わっています。大きく分けて3種類あり、A型、B型、C型のインフルエンザがあります。もちろん、その中でも亜型が存在します。

インフルエンザの型で「HA」「NA」(下記に構造の説明有り)のタンパク質があるのはA型のみで、B型、C型にはありません。

インフルエンザウイルスはRNAウイルスで、8本に分かれたRNAを持っています。

補足:インフルエンザC型のRNAは7本です。

A型インフルエンザウイルスは9種類の構造タンパク質と8本のRNA分節によって構成されています。これらのRNAから10種類のタンパク質が合成されます。

それでは、具体的にインフルエンザの構造について見てみましょう!

Contents

A型インフルエンザウイルスが作るタンパク質は?

・HA(ヘマグルチニン)

インフルエンザウイルスの表面に突出しているスパイクタンパク質です。16の違う形を持っています。インフルエンザウイルスの性質を決定づける重要な役割があります。

・NA(ノイラミニダーゼ)

ヘマグルニチン同様にインフルエンザウイルスの表面に突出しているスパイクタンパク質です。9種類の違う形を持っています。インフルエンザウイルスの性質を決定づける重要な役割があります。

・NP(核タンパク質)

インフルエンザウイルスの主要な構造を担うタンパク質です。

・M2(マトリクスタンパク質2)

ウイルスの膜上にありますが、数はとても少ないタンパク質です。水素イオンをウイルス内部に導入するイオンチャンネル活性の役割があります。

・M1(マトリクス蛋白1)

インフルエンザウイルスの外皮膜の強度を高めるためにある構造保持に不可欠なタンパク質です。また、RNA合成の抑制などの役割もあります。

・PA(RNAポリメラーゼαサブユニット)

・PB1(RNAポリメラーゼβ1サブユニット)

・PB2(RNAポリメラーゼβ2サブユニット)

インフルエンザウイルスのRNAを合成するRNA合成酵素(RNAポリメラーゼ)を構成するタンパク質群です。

・NS1(非構造タンパク質1)

インターフェロン(抗ウイルス作用を持ちます)を制御するタンパク質です。感染した細胞内で、宿主の免疫防御システムを妨害する働きがあります。

・NS2(非構造タンパク質2)

RNAタンパク質複合体(核タンパク質とRNAポリメラーゼが結合したもの)の核の外へ輸送に関わっているタンパク質です。

インフルエンザの増殖方法について

そもそもウイルスには代謝の機構がないので自らがエネルギーを生成することはできません。なので、言わば運任せで感染するのです。

インフルエンザにかかった人が咳やくしゃみをすると5〜10万個のウイルスが飛散します。繰り返し咳やくしゃみをする人の周りには無数のインフルエンザウイルスがいるのでそれだけ感染する可能性が高いと言えます。

一方、インフルエンザウイルスに突出してあるヘマグルニチンが物理的(障害物にぶつかるなど)に壊される、または化学的(次亜塩素酸水溶液やアルコール製剤などに触れるなど)に変性した場合はウイルスの感染能力がなくなり(不活化)死んでしまします。

まず初めに、ヘマグルニチン(HA)などを利用して宿主の細胞の細胞膜表面に「吸着」し、エンドサイトーシス(飲食作用)によって細胞の内部に「侵入」します。

吸着できるかどうかは細胞とウイルスの相性で決まります。両者の関係は免疫反応と同様「鍵」と「鍵穴」の関係に類似しています。

補足:インフルエンザウイルスの場合HAが「鍵」の役割を担っています。

小胞の中の「エンドソーム」にてインフルエンザウイルスのエンベロープとエンドソームの膜を融合して、RNAを細胞質内部に放つ「脱穀」が起こります。

補足:ここで活躍するのがM2でイオンチャンネルを活性化し内部を酸性となった結果、RNAタンパク質複合体とウイルスのエンベロープの結合が緩み、HAを使ってエンドソームとエンベロープが融合させます。

これらが宿主の細胞核に移動し、RNAを複製して大量に「合成」するのと同時に、ウイルスのタンパク質も「合成」されます。

合成されたRNAとタンパク質が合わさり「成熟」したあと細胞の外へ「放出」されます。

補足:放出されるときに使用されるのがNAで細胞の外に出るときに切り離す「はさみ」のような役割があります。

これらの一連のプロセスを経てインフルエンザウイルスは増殖しているのです。

疑問補足:強毒型のインフルエンザウイルスには「HAの開裂」が大きく関わっています。通常のインフルエンザウイルスであれば、上気道や消化管の細胞がもつタンパク質分解酵素でなければ「HAの開裂」が起きないためそこでのみ感染や増殖ができません。(HAの開裂がないと脱穀の作業ができないため)

しかし、強毒型の場合全身の臓器で増殖することが可能です。それは、特殊なタンパク質分解酵素でなく、どこの臓器でも存在するタンパク質分解酵素によっても「HAの開裂」ができるため全身で症状が出てしまうからです。つまり、鍵穴が臓器でも存在するということです。

下記の違う記事にて一般的なウイルスの増殖プロセスについて記載しております。

参考ウイルスは生物ではない!ウイルスの構造から増殖のプロセスについて

インフルエンザウイルスは突然変異しやすい

通常、長い年月をかけて遺伝子の新しい形質が変化していきますが、遺伝物質によってその周期が異なります。私たち人間の遺伝情報はDNAに記録してありますが、インフルエンザウイルスはRNAに記録しています。

インフルエンザウイルスのようなRNAウイルスは、複製する時に、「完全コピー」しない時があります。つまり失敗のまま複製してしまいます。

補足:DNAは、コピーミスを修正する機能がありますが、RNAにはありません。人に比べると1000〜1万倍の確率で遺伝子が変異してしまいます。そのため、インフルエンザだけでなく、RNAウイルスはDNAウイルスに比べて修復機能がない分、突然変異しやすいと言えます。

本来ならばミスしたままでは生存することは極めて困難になりますが、インフルエンザの場合は、大量にウイルスが誕生するので特段問題ではありません。

インフルエンザウイルスの構造と変異

その結果、新しい遺伝子ができ、「HA」、「NA」のタンパク質の構成や少しだけアミノ酸の配列が違うタンパク質が生まれて、突然変異のウイルスが生まれます。

注意:この少しでもアミノ酸配列が変わったとしても私たちの免疫が作る抗体の効果低くなり、タンパク質の構成が異なれば、全く効果がなくなります。

増殖する機会が増えれば増えるほど変異する機会も増える選択的に感染しやすい形のウイルスが残っていきます。

そうして、インフルエンザはこの並外れた感染力を持つため繰り返し遺伝子を変化させることによって種の壁(違う動物)を乗り越えて免疫をくぐり抜けて感染させてしまうのです。

遺伝子の交換が起きることで新型インフルエンザになる

一般的に、鳥に流行する鳥インフルエンザは人間には感染しませんが、豚には感染します。これが非常に厄介なのですが、豚の呼吸器には人と鳥インフルエンザウイルスどちらの受容体があります。つまり、豚がハブの役割を担ってしまっています。

例えば、ある豚が人インフルエンザと鳥インフルエンザ同時に感染したとします。この豚の細胞には2種類のウイルスのRNAが放出されており、通常8本のRNAが16本いることになります。

その16本から8本取った新たな組み合わせのインフルエンザつまり、新型インフルエンザが生まれる可能性があるのです。

アジア風邪や香港風邪の新型インフルエンザもこのように誕生しました。

疑問補足:アジア風邪はスペイン風邪と鳥インフルエンザ交換されて生まれたインフルエンザで、香港風邪はアジア風邪と鳥インフルエンザが交換されて生まれたインフルエンザです。

以上、インフルエンザウイルスの構造と増殖そして変異についてご紹介しました。