母子感染は胎内感染、分娩時感染、経母乳感染の3つのルーツがあります。赤ちゃんを産みたいと思われている女性だけでなく夫婦や同居する家族の皆さんに知ってもらいたいです。
母子感染の中には事前にワクチンの接種や治療をすることで感染を防ぐことができます。一過性の感染症で治るものもありますが、後遺症や死に至る感染症もあります。まずは、母子感染をする感染症について知ることが大切です。
そこで、今回は母子感染に関する感染症をまとめてご紹介したいと思います。
Contents
予防接種(ワクチン)により母子感染を予防できる感染症
予防接種を打つことで我が子を守ることができるのであればやるにこしたことはありません。
母子感染だけでなく、ワクチン接種についてのまとめをこちらに記載しております。参考にどうぞ!
参考:【まとめ】主な定期予防接種と任意ワクチン接種でどんな病気を予防できるか
風しん(風疹)
風しんウイルスが原因で飛沫感染により感染します。妊娠希望される方は抗体価を調べて足りないようであれば、ワクチンを接種することを強くオススメします。但し、妊娠中には予防接種を受けることはできません。
妊娠初期(12週まで)に感染し胎児に感染すると、先天性風しん症候群と呼ばれる先天性心疾患、白内障、難聴などの障害がある赤ちゃんが生まれる可能性があります。(12〜24週は特に難聴の症状がでやすいです。)
抗体価を調べ免疫のない夫や同居の家族は風しんワクチンを接種してもらい、人混みはできるだけ避けてください。
風しんと先天性風しん症候群について下記に詳しく記事を記載していますので参考にしてください。
参考:子どものために知っておきたい風しんと先天性風疹(ふうしん)症候群について
麻疹(はしか、麻しん)
麻疹ウィルスが原因となる感染症でインフルエンザ以上に感染力が強く致死率も高いです。今までにMRワクチンと言う風しんと麻疹混合の予防接種をしている人もいますが、1度だけで免疫を獲得しない人も中にはいます。
・1977年以前の生まれの人は定期接種がありませんでした
・1977年~1990年生まれの人は、定期接種を1回受けています
・1991年以降の生まれの人は、定期接種を2回受けています
子どもよりも大人のほうが重症になりやすいので早めにワクチンを接種すべきです。
妊娠中に感染し、胎児に感染すると、流産、早産、子宮内胎児死亡の原因とる可能性があります。
妊婦さんは、風しん同様、麻しんの流行がみられた場合は、なるべく外出を控えて人混みをさけてください。
参考:幼稚園・保育園で気になる麻疹(はしか)について現場の対処
水ぼうそう(水痘)
水ぼうそうは、飛沫感染、空気感染、接触感染が感染経路で非常に感染力が強いのが特徴です。
ほとんどの人が幼少期に感染またはワクチン接種により免疫を持っています。95%の人が10歳以下で感染し、15歳以上になると1%以下とかなり下がります。
感染してから2週間程度(10〜21日)の潜伏期間を経た後で、(今までに一度も感染したことがない人は長くなる傾向にあります。)全身に痒みを伴う発疹が出てから水疱が出来て、かさぶたとなります。
妊婦が発症することは稀ですが、妊婦が水ぼうそうに発症すると、妊娠していない人に比べて重篤化しやすく合併症である水痘肺炎を発症する危険があり最悪死に至るケースもあります。
また、妊娠初期の8週〜20週の間に胎盤を経由して胎児にも感染すると、先天性水痘症候群(CVS)、流産、早産、乳児期帯状疱疹、周産期水痘が現れる危険性があります。
先天性水痘症候群(CVS)とは、胎児に皮膚の萎縮、眼の異常、手足の低形成など奇形のほか全身性の感染症状を生ずる症候群を言います。
分娩前後に水ぼうそうを発症した場合は、新生児に感染する確率が高いと言われています。
やはり、対策をするには妊娠する前にワクチンを接種して予防をすべきです。
おたふく風邪(流行性耳下腺炎)
おたふく風邪に感染するのは3〜6歳の未就学児が60%を占めています。感染経路として飛沫感染や接触感染があり、感染後、2〜3週間の潜伏期間の後に症状として、耳の下やえらの部分の腫れや発熱があります。
全国約3,000カ所の小児科定点から2018年10月14日までの累計で19,613人の感染者が報告されています。
また、合併症として髄膜炎、乳腺炎、難聴、膵炎(すいえん)など思春期以降の感染だと精巣炎(睾丸炎)、卵巣炎なども併発する可能性があります。
妊娠初期の感染では流産の原因や、低出生体重児の出生頻度が増えることが報告されています。また、出産前後での感染により赤ちゃんに感染し、合併症を引き起こすこともあります。
風しんやはしかワクチン同様に予防接種をしておくことで免疫をつけることをおすすめします。
子どものことを考える前には一通りワクチンを接種しておきましょう。妊娠中にはワクチンを接種することはできません。
主に性行為により母子感染する感染症
母子感染により胎児の流産や死産、重篤な後遺症などを患う可能性があります。
定期検診にてきちんと検診することやコンドームの着用して性病予防をすることでリスクを下げることができます。
B型肝炎
一般社団法人日本肝臓学会によると、日本でB型肝炎に感染している人数はおよそ100人に1人の割合で約130〜150万人と言われています。今では、主に性感染することが多いです。
B型肝炎ウイルス(HBV)は肝臓に感染して炎症(肝炎)を起こします。肝炎が持続すると慢性肝炎から肝硬変、さらには肝がん(肝細胞癌)へと進展する可能性があります。
新生児に感染しても多くは無症状ですが、乳児期に重い肝炎を起こすことがあります。
妊婦がB型肝炎ウイルスを持っている場合、母子感染予防対策によりワクチンを接種することで感染を予防します。母子感染予防処置のもと授乳もすることが可能です。
参考:日本小児科学会「B型肝炎ウイルス母子感染予防のための新しい指針」
決められたスケジュールできちんと感染防止策を受けるよう、医師の指示に従ってください。
通常の健康診断の時に、B型肝炎に感染しているか検査することをおすすめします。また、妊娠中の定期検診にてB型肝炎ウイルスが陽性か血液検査で調べておくことが重要になります。
HTLV-1感染症
HTLV-1とは、ヒトT細胞白血病ウイルス-1型(Human T-cell Leukemia Virus Type 1)のことを呼び、免疫を司る白血球の一つであるリンパ球に感染します。
HTLV-1の主な感染経路は主に授乳による母子感染、性感染(主に男性から女性に感染します)です。
HTLV-1感染者のごく一部では下記の病気を発症します。
・ATL(エーティーエル):成人T細胞白血病
・HAM(ハム):HTLV-1関連脊髄症
・HU(エイチ ユー):HTLV-1関連ぶどう膜炎
これらの病気が発症するしくみについては、まだはっきりとわかっていません。
HTLV-1感染者が生涯にATLになる確率は約4~5%、HAMになる確率は約0.3%、HUは約0.1%(男性の方が女性よりも2倍多い)と言われています。従って、約95%の人は一生患うことはありません。
新生児に感染しても多くは無症状です。授乳方法によってHTLV-1感染の可能性を低くすることがわかっているので、授乳方法については医師ともよく相談しましょう。
妊娠中の方は、妊娠30週までに行われる定期検診で血液検査にてHTLV-1に対する抗体の有無を調べることをおすすめします。
仮に、HTLV-1に感染していても、赤ちゃんに障害が持って生まれたり、奇形児等が生まれたりすることはありません。そのため、通常の出産と変わらないので、不安にならなくても大丈夫です。
梅毒
梅毒は梅毒トレポネーマ(Treponema Pallidum)による細菌感染症です。主に性感染により粘膜や皮膚の小さな傷から侵入して感染します。
梅毒に感染した妊婦から胎盤を通じて胎児にも感染すると、妊娠初期の場合は先天梅毒となり流産、早産、死産となるケースが多いです。(母体が無治療の場合、40%ほどの確率で先天梅毒になります。)
また、出産した後、乳幼児や幼児期などの発症の時期によって障害の度合いや症状が異なり後遺症を残してしまいます。
国立感染症研究所によると、先天梅毒の罹患数は、2013年に4人、 2014年に10人(先天梅毒と報告された成人1人を含みます)、 2015年に13人、2016年に14人と報告されています。
また、梅毒の罹患患者数(男性を含む総数)は、2013年に1,228人、2014年に1,661人、2015年に2,690人、2016年に4,575人、2017年5,820人、2018年に5,811人(2018年11月4日までの報告)と増加傾向になっています。
2018年は、1999年以降で最多となり皮膚や粘膜に異常があった場合には早く医療機関の受診を呼びかけています。
先天梅毒は、女性が梅毒に感染しないように予防すること、妊娠中に早期診断・治療をすることで発生を防ぐことができます。(病期に応じた適切な抗菌薬治療を分娩4週間前まで完全に行うことができれば、先天梅毒の発生を予防することができます。)
一番の予防はコンドームを使用することです。但し、コンドームを覆っていない皮膚などでも感染がおこる可能性があるため100%安全ではないことに留意してください。
エイズ(AIDS)
HIVが原因となるウイルスで人の免疫機能を壊すためウイルスを退治することができません。免疫不全の結果その他感染症になり亡くなる致死性の病気です。
現在の医療では、臨床試験で完治したケースを除いて治療ではなく発症を抑制するための治療となっています。
母親が感染している場合、胎盤や産道、母乳を介して赤ちゃんに感染する可能性がありますが、適切な母子感染予防対策を行うことにより母子感染率を低下させることができます。
エイズの母子感染の経路で感染率が高いのは出産する時です。胎児が産道で母体の血液にさらされて、その血液を飲み込んだりすることで感染する可能性が高いと言われています。
感染の確率を下げるためには、陣痛前の帝王切開にて出産することが望ましいとされています。
また、研究の進歩によって妊娠初期に診断されることで、その後の治療により母子感染はほぼ100%回避可能ともなっています。
参考参考:HIV 母子感染予防対策マニュアル
性器クラミジア感染症
クラミジア・トラコマチスが原因の細菌で、性行為によってもっとも感染しやすい病気が性器クラミジアです。女性が感染すると卵管の閉塞や周囲の癒着などを発症して不妊症になる確率も上がります。
妊娠中に感染し、胎児にうつると、流産、死産、早産、低出生体重児などの原因になる可能性が示唆されています。また、気づかないまま赤ちゃんを出産すると母子感染し、肺炎や結膜炎を引き起こすこともあります。
性行為の最初からコンドームを正しく使えば感染を予防することができます。
性器ヘルペスウイルス感染症
単純ヘルペスウイルス1型、2型(HSV-1,HSV-2)が原因のウイルスで、感染にすると、性器やその周辺に水疱や、潰瘍を作る病気です。
母子感染すると2〜7日の間に新生児ヘルペスとして発症します。発熱、母乳を飲む力が低下、無呼吸、黄疸などの症状や脳症などの後遺症を残す場合もあります。
無治療の場合、死亡率が高くなっているため感染が明らかな場合はすぐに抗ウイルス薬にて治療を行います。
お母さんの感染が分かっている時、出産時に産道でウイルスが増えると、新生児ヘルペスを発症する場合もあるので、帝王切開による出産で予防をすることもあります。(医師の指示に従います。)
その他の母子感染の可能性がある感染症
その他の母子感染してしまう感染症の中で蚊、原虫を媒介するものや細菌ウイルスと非常に多岐に渡ります。
手洗いや次亜塩素酸水溶液などの除菌剤の活用、蚊の対策や流行地には赴かないなど複数の予防策を講じる必要があります。
トキソプラズマ症
トキソプラズマと呼ばれる原虫が感染の原因で、猫と人でどちらも感染する人畜共通感染性です。
妊娠中に初めて感染し母子感染すると、流産や死産の原因になります。先天性トキソプラズマ症になると、運動発達遅延、精神遅延、水頭症、脳・目に重篤な障害のある赤ちゃんが生まれることがあります。
アメリカ疾病予防管理センターでは、妊娠中にトキソプラズマ症を予防するために下記のことがポイントとして挙げられています。
・食用肉はよく火を通して調理する (ユッケ、馬刺し、生ハムなどの食事は避ける)
・食用肉や野菜などに触れたあとは、よく手を洗う
・野菜や果物は食べる前によく洗浄する
・畑仕事やガーデニングなどでは手袋を着用する
・動物(ネコ)との接触、糞尿の処理は手袋を着用する(手洗いをする)
・妊娠初期から予防や抗体検査を徹底する
リステリア症
リステリア症は、河川や動物の腸管内など自然界に幅広く分布するリステリア・モノサイトゲネスと呼ばれる細菌が原因菌で食中毒をもたらす菌です。厚生労働省によるとリステリア感染症の推定患者数は年間200人と言われています。
妊娠中に感染すると、妊婦さんに髄膜炎や敗血症など重篤な症状が出る場合があります。
理由は完全には分かっていませんが、妊婦は通常の成人に比べ、リステリア症になるリスクが20倍高いと言われています。
また、母子感染すると流産、早産、死産の原因になることがあります。妊婦さんがリステリア症を予防するポイントは下記です。
・野菜や果物などは食べる前によく洗浄する
・開封後は、期限に関わらず早めに消費する
・冷凍庫で保存する
・よく火を通して調理する
ジカウイルス感染症
ジカウイルスは、ジカウイルスを保持している蚊が人に吸血すること(蚊媒介感染症)で感染させる感染症です。基本的には人から人へ直接感染はしません。
また、妊婦が感染することで、母子感染することがあり、先天性ジカウイルス感染症になり小頭症や関節拘縮(関節の可動域が制限され、屈曲・伸展が困難になる状態)などを引き起こす可能性があります。
厚生労働省によると、先天性ジカウイルス感染症に関しては、現在のところ胎児への感染の診断方法やその解釈について、確立されているとはいえず、ワクチンや治療薬もありません。
そのため感染予防対策が必須で、妊婦及び妊娠の可能性がある人の流行地への渡航は控えることとされています。
リンゴ病(伝染性紅斑)
全国約3,000の小児科定点医療機関で感染者数が把握されており、2018年1月1日〜10月14日までに25,228人報告されています。
ヒトパルボウイルスB19が伝染性紅斑(りんご病)の原因となる病原体です。2歳から9歳の幼少期に感染しやすいです。
飛沫感染、接触感染を起こし、感染してから症状が現れるまでの潜伏期間は4日〜15日(厚生労働省の情報)または、10日〜20日(国立感染症研究所の情報)です。
症状として、ほほに境界鮮明な紅い発疹が現れた後、続いて手や足にも赤い発疹がでます。また、発疹の他に軽い風邪のような症状や関節炎などの合併症を引き起こすことがあります。両方のほほがりんごのように赤くなることから「リンゴ病」と呼ばれています。
妊娠中に胎児に感染すると、胎児水腫、流産などの可能性があります。
特に、妊娠初期の感染が危険ですが、妊娠20週すぎた後でも赤ちゃんへの感染はあります。
残念ながら今のところワクチンが開発されていません。お住いの周辺で伝染性紅斑(りんご病)の流行が出た場合は、なるべく外出を控えてください。
しかし、リンゴ病を発症した妊婦から出生し、ウイルスの感染が確認された赤ちゃんでも、妊娠分娩の経過が正常で出生後の発育も正常である場合が多いと言われています。
C型肝炎
国立感染症研究所によると、日本には150万人〜200万人の感染者がいると推定されています。性交渉による感染や母子感染の可能性は低いと言われています。感染経路としては感染者の血液が体内に入った時に感染するケースが多いです。
厚生労働省によると、母親がC型肝炎ウイルス(HCV)を持っている場合の赤ちゃんへの感染率は約5%と言われています。
新生児は多くは無症状ですが、感染したのち20~30年の長い経過で慢性肝炎、肝硬変、肝癌へと進展していく可能性があります。
出産を考えている女性は、通常の血液検査の時にC型肝炎ウイルス(HCV)に感染しているかどうか別途調べておくことをおすすめします。
今現在、C型肝炎ウイルス感染予防のためのワクチンはありません。C型肝炎を予防するためには、感染している人の血液になるべく触れないことやコンドームを使用することを心がけましょう。
B群溶血性連鎖球菌感染症
B群溶血性レンサ球菌(GBS)が原因の細菌で、母子感染すると、肺炎、敗血症、髄膜炎などでは約2割新生児が死亡または重い後遺症を患う可能性があります。
B群溶血性連鎖球菌は、女性の膣内に常在することのある細菌です。妊婦以外では問題となることは少ないですが、出産時に児へ産道感染すると、敗血症、髄膜炎、肺炎などの重症のB群溶血性レンサ球菌感染症を起こすことがあります。出産時に母体へ抗生物質の点滴投与をして児への感染を防ぐことができます。
日本産科婦人科学会・日本産婦人科医会から母児感染予防のためのガイドラインが示されており重要な母子感染予防するためのポイントは下記の3つです。
・B群溶血性連鎖球菌保有妊婦検出のために妊娠 33 ~ 37 週に腟入口周辺の培養検査を実施する。
・B群溶血性連鎖球菌を保有している妊婦ならびに保菌状態不明妊婦には分娩中に抗菌剤を投与すること
・以前出産した子どもが B群溶血性連鎖球菌感染症の場合、B群溶血性連鎖球菌を保有している妊婦として処置すること
サイトメガロウイルス感染症
サイトメガロウイルスが原因のウイルスで、妊娠中に感染すると母子感染する可能性があります。このウイルス自体どこにでもいるありふれたウイルスで成人女性の約7割の人が感染したことがあり抗体を持っています。
サイトメガロウイルスの主要な感染経路は、子どもの唾液や尿からの接触感染といわれています。母子感染すると流産・死産の原因となったり、先天性サイトメガロウイルス感染症を発症し、(赤ちゃんの1〜3割程度)低出生体重、黄疸、肝機能異常、脳、聴力などに障害を生じることがあります。
予防するために特に、妊娠中に気をつけることは下記です。
・手洗いをこまめにすること(オムツ交換や接触した後)
・子どもとの食器や歯ブラシタオルの共有
・子どものおもちゃの次亜塩素酸水溶液を使った除菌、ウイルス除去を徹底
・子どもの食べ残しを食べる
・子どもへの頬や唇へのキス(代わりにおデコに)
以上、【【まとめ】母子感染を起こす感染症について〜妊婦さんは予防を!〜ついてご紹介しました。参考になれば幸いです!