【追記2019年1月27日】
ウイルスは細胞内で増殖をするため、細菌に対する治療薬の抗生物質とは異なりウイルスに直接作用して治療するわけではありません。
ウイルスに共通する感染・増殖機構の一部を阻害することで食い止めることができます。もちろん、ウイルスの除去は体の免疫が担っています。
Contents
抗インフルエンザ薬とは
抗インフルエンザ薬では、インフルエンザウイルスの型が違ってもある程度は効果があることが分かっています。基本的には感染した後48時間以内に薬を投与することで効果を発揮しますが、医師の判断により予防薬として使用する場合もあります。
抗インフルエンザ薬にはM2阻害剤、ノイラミニダーゼ阻害剤、キャップ依存性エンドヌクレアーゼ阻害剤の3種類あり各々違うメカニズムによってウイルスの増殖を阻害します。
今回は、その抗インフルエンザ薬の働きについて具体的にご紹介していきます。
M2阻害剤
抗ウイルス薬の「アマンタジン」はウイルスの表面にあるM2タンパク質の働きを阻害することでウイルスの増殖を阻害しています。
注意:B型インフルエンザウイルスにはM2タンパク質がないので効果がありません。
インフルエンザウイルスが増殖するためには宿主の細胞内にRNA(遺伝子)を移動させる必要があります。
ウイルスは、移動する前に、ウイルスを覆っているエンベロープとタンパク質複合体との結合を解除します。そこで、この結合を解除するために重要な役割を担っているM2タンパク質をアマンタジンが狙い打ちをします。
そこで、ウイルスはいつまでたっても宿主の細胞にRNAを移動させることができないため増殖ができなくなってしまいます。
補足:アマンタジンは、予防薬としても優れた薬でインフルエンザの感染がしにくくなり、感染したとしても発熱などの症状を緩和することができます。しかし、最近では抗インフルエンザ薬としては使用されなくなりました。(パーキンソン病の病状を改善する治療薬として用いられています。)
厚生労働省によると、アマンタジン(他にはリマンタジンも)は、人に伝播するすべてのインフルエンザA型ウイルスが耐性を示したと言われています。
抗生物質や抗ウイルス薬を罹患患者に投与すると薬の効果がない耐性菌や耐性ウイルスが出現します。これは、微生物と薬とのいたちごっこになり避けられません。
補足:日本ウイルス学会の先生によるとアマンタジンは治療投与すると、2〜3 日という短い間に20〜30 %と高い確率で耐性ウイルスが出現すると言われています。
アマンタジンは非常に効果的な抗ウイルス薬ですが、服用するとごくわずかな耐性を持ったウイルスだけが生き残ります。
一部の国では一般の風邪薬にも成分が入れられており、服用を続けることで80〜90%近くが耐性ウイルスになっていると言われています。その結果、タミフルやリレンザなど違う抗インフルエンザ薬が必要となり取って替えられました。
ノイラミニダーゼ阻害剤
ノイラミニダーゼとは、インフルエンザウイルスの表面を覆うタンパク質の一つで、ノイラミニダーゼを阻害してウイルスの増殖を抑制しています。
「タミフル」や「リレンザ」がノイラミニダーゼ阻害剤を利用した抗インフルエンザ薬です。
アマンダジンはウイルスRNAの細胞質への侵入過程を阻害する薬であるのに対して、ノイラミニダーゼ阻害剤は、細胞内で増殖したウイルスを外に放出するのを阻害します。
ノイラミニダーゼとノイラミニダーゼ阻害剤は鍵と鍵穴の構造と同じため、両者が結合するとシアル酸を切り離す能力を失わせることができます。
タミフルは、日本で最も消費されています。他の抗インフルエンザ薬にも共通しますが、タミフルを飲むならば2〜3日で服用をやめず飲みきる必要があります。それは、アマンダジンでもあったように耐性ウイルスを発生しやすくしてしまうからです。医師に従って服用するようにしてください。
リレンザもタミフル同様に治療効果と予防効果が期待できます。症状がでてから48時間経過すると十分な効果がでません。
また、インフルエンザ迅速診断キットで陰性だからといって100%正確ではないので注意をして他人にうつさないように注意しましょう。
キャップ依存性エンドヌクレアーゼ阻害剤
「キャップ依存性エンドヌクレアーゼ阻害剤と呼ばれる新規の作用機序を有するインフルエンザ治療薬として「ゾフルーザ」は、2018年2月に厚生労働省により承認されました。
また、特徴としては、1回の経口投与で治療が完遂すると言われています。
インフルエンザウイルス特有の酵素であるキャップ依存性エンドヌクレアーゼに作用し、インフルエンザウイルス遺伝子からの転写反応を阻害することで、インフルエンザウイルスの増殖を抑制します。
ゾフルーザの作用する「キャップ依存性エンドヌクレアーゼ」は遺伝子の変異が起きにくいため、ゾフルーザは薬剤耐性ウイルスが生じにくいと言われています。
但し、ゾフルーザは今までの抗インフルエンザ薬と異なり新規の作用機構を利用しているため、長期的な安全性や副作用が発現する可能性もあります。
また、タミフルやイナビルと異なり、予防投与はできないのでその点も留意して医師の判断に従って服用してください。
参考:「ゾフルーザ」のインフルエンザウイルス感染症予防に関する効能・効果
2019年1月24日に国立感染症研究所により重要な発表がありました。抗インフルエンザ薬のゾフルーザにより耐性ウイルスが出ていると発表しました。耐性変異があるウイルスは、ゾフルーザの効果が大きく低下してしまうそうです。
また、ゾフルーザは半減期が長く、単回投与でインフルエンザが治療できると期待されておりました。一方で、変異がでやすい(抗インフルエンザ薬に対する耐性をもつ可能性が高い)ため注意が必要と日本感染症学会においても懸念されていました。
『平成 30 年 10 月 1 日 一般社団法人日本感染症学会 インフルエンザ委員会 青木洋介、川名明彦、國島広之、新庄正宜、菅谷憲夫、永井英明、廣津伸夫、藤田次郎、三鴨廣繁、石田 直(委員長)
2019年のインフルエンザの流行は例年よりも遅れて始まりました。まずは、感染しないことが一番ですが、感染してしまったらまわりに感染させないように十分注意してください。
新型インフルエンザに対する抗インフルエンザ薬の効果は?
季節性のインフルエンザに対してはタミフル、リレンザ、ゾフルーザは臨床的にも効果があることは証明されていますが、パンデミックを起こすような新型インフルエンザに対してはどうなのでしょうか?
2009年にメキシコで発生した新型インフルエンザ(AH1N1型)にはタミフルやリレンザは効果があったことが分かっています。しかし、そのような新型インフルエンザも耐性ウイルスになる可能性は否定できません。
・新型インフルエンザに感染した人が抗インフルエンザ薬を服用してウイルスに変異が起こり薬剤耐性を持つ可能性
・Aソ連型タミフル耐性ウイルスと新型インフルエンザウイルスが同時に宿主に感染して遺伝子最終号が起きた結果タミフル耐性を獲得する可能性
このようにしてタミフルが無効になるウイルスが誕生することになります。
それ以上に最悪のケースとして、強毒型の鳥新型インフルエンザと新型ヒトインフルエンザウイルスが遺伝子再集合する場合です。強い病原性と強い伝播力を持った最悪の新型ウイルスが登場する可能性はないとは言えません。
強毒型の鳥インフルエンザに感染した人に対してタミフルにて治療した結果タミフル耐性ウイルスが出現し、死亡した症例があります。(一時的に回復したけれど、耐性ウイルスにより死亡したケースも)
他方、タミフルの治療効果が現れるケースもありました。治療効果に対してこのような違いが出た要因はタミフルの投与の時期、投与量、患者の遺伝的背景などまだ解明されていません。
私たちが抗インフルエンザ薬を開発して使えば、インフルエンザも変異して新型になって常にいたちごっこになってしまいます。そのため、研究や臨床を重ねてゾフルーザのような新しい抗インフルエンザ薬を開発しなければいけません。
以上、抗インフルエンザ薬はどのような作用か?新型インフルエンザへの効果についてご紹介しました。